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本気でデジタルトランスフォーメーションを実現したいのであれば今すぐおまえらの組織の看板から "DX" の文字を排除しろ

近年、日本の大企業、特に非デジタルの領域でビジネスを成長させてきた業種・業態の企業において、例外なく DX に関連する取り組みを推進・進行している。そして、大きな取り組みの成功事例もよく目にするようになってきている。しかしながら大多数がその成功事例を有する先行者のフォロワーに過ぎないというのが実情であろう。筆者は2022年1月からある大手 JTC の開発組織で中間管理職をしているマネジメント2年生の所謂 DX課長 であり、渦の中で藻掻く者のうちのひとりである。たかが1年間、されど1年間ではあるが、1年間藻掻く中で思うこと感じること考えてることがあるので、このタイミングで文章としてダンプしていく。

そもそも DX とは何なのか

経済産業省が提唱する "DX" の定義は、NTT Communications の解釈ではこのように説明されている*1

経済産業省ではDXの意味として 「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」 と定義されています。 企業におけるデジタルツールの導入はDXとは言いません。データ・デジタル技術は、変革のための「手段」とされています。

正直さっぱりわからない。"手段" とするのであれば、具体的に何をすることなのかが明確である必要があるのではないだろうか。IT化やデジタル化と何か違うのだろうか。少し検索すればこれらを説明する文書は多く見つかるが、曖昧な境界と定義をまわりくどい文章で解説しているものばかりだ。結局疑問は解消しない。世の中の多くの人々の間で解釈と認識に大きなバラツキが生じていることは間違いないだろう。つまり "DX" はユビキタスとは程遠い、定義や解釈が曖昧な言葉なのである。

定義、解釈、認識が曖昧なまま『DX をやっていく』を継続したときに起こること

認知が歪み、頭手足がバラバラの方向に進もうとする

単一の事象に対する解釈が人によって複数パターン存在してしまう場合、同じものを指して話をしているはずなのにイマイチ噛み合わないということが容易に起こってしまう。『DX を推進していくにおいてプロダクト作成の全行程を内部で完結させるべきである』という認識の人と、『DX を推進していくにおいてソフトウェア開発は SIer に一任し、それらをグリップすることを徹底するべきである』という認識の人では折り合うことはない。"内部" というのはパートナーや SIer も含んでいると考える人もいるかもしれない。こうなると、同じ "DX" をやっているはずなのに、チームや部署によって本質的に方向性の異なる取り組みをしてしまうようになる。

ローカルスコープで独自の解釈を反映した新たな定義を作ろうとする

組織間で認識のズレが生じることによってコラボレーションにも弊害が生じてくる。そのギャップを解消するために、自分たちの解釈を反映した新たな定義をして既存のものを上書きしようとする動きが起こることがあるが、これは絶対的に悪手である。定義の上書きのスコープがチーム内や部署内に限定されるのであれば、ある程度のコストはかかったとしても擦り合わせること自体は比較的容易に行えるだろう。ただし次は他部署との連携で同じことが起こることが明白だ。多くの部署を巻き込んでカンパニーワイドで定義の上書きをすることは容易なことではないし、仮にそれがうまくいったとしても今度は社外の多くの一般的な認識とズレたままになるだけであって、まったくのナンセンスだ。

歪んだ認知を抱えたまま取り組みを推進していくと SIer, コンサルティングの餌場になる

彼ら彼女らは老獪・狡猾なテクニックを使ってそれらしいことを甘言してくる。非デジタルの領域でビジネスを成長させてきた業種・業態の企業でのビジネスにおけるデジタル戦略のほとんどが SIer やコンサルによって成立してきているので信頼と実績がある。バイアスがかかって「彼らの言う通りに進めてみよう」となることは容易なのだろう。しかしそうなってくると、内部に開発組織を設けたとしても開発そのもの実態は SIer が担うことになる。これまでと何が違うのだろうか。言われるがままに異常な人数が放り込まれてくる。高額な人件費。まさに餌場。

また、社内の事業部の担当者からは「システムを開発・導入して解決したい課題はたくさんあるが、予算がないので発注出来ない」というような話も聞く。確かにこれまでの慣例に倣って SIer が開発を担うとすると、目玉が飛び出るほどの金額が必要になる。そして極めて遅い。平気で数ヶ月数カ年スパンでのスケジューリングをしてくる。管轄チーム内に事業部の課題を解決するためのケイパビリティは十分に有しているが、アサインの都合上クイックに対応することが出来ていないのが立場上非常に歯がゆい。

そして開発組織のマネジメントをしているとこういうふざけた提案が定期的に飛んでくる。単価もめちゃくちゃに高額。

プロパー社員が疲弊し現場が崩壊する

SIerシステム開発の実態を担うということになると、DX をするために内部に設けた開発組織が責任を持つ立場を取らないとならない。そうなると、純粋なソフトウェアエンジニアとしてプロダクト開発をするために中途入社してきた社員がベンダーコントロールをやらされたりする。当然退職する。自分たちでプロダクトを開発していくことを目指して設けられた組織であるはずなのに、アサインのミスマッチで貴重な開発力をどんどん失っている。現在ではその傾向は大きく緩和しているものの、筆者が入社するタイミングで入れ替わりのように高い技術力を有する強力な数名が退職してしまっていた。

DX を成功に導くために必要な前提条件

強力なトップダウンによる体制から始める

"DX" の定義が曖昧であることによって発生する問題について述べてきたが、これは組織がトップダウンでの明確な方向指示を怠っているがゆえに起こっているという側面もある。"DX" が曖昧であったとしても、組織としての Mission, Vision, Value が明確に示されていれば起こすべきアクションも必然的に明確になるのだから、マネジメントを含めた現場の認知が歪むということも回避出来る。うまくいっていない組織では例外なくここが機能していないはずだ。言うが易しではあるが、会社組織全体に影響を及ぼす意思決定をしなければならないので責任者は大きなプレッシャーを伴う。相当な自信家か狂人でなければ務まらないのかもしれない。

例えばボトムアップで改革を行っていく胆力がある人間が複数部署にいてそれぞれが別の正義を持っている場合、結局は上位のマネジメントが取捨選択をしなければならないのだから、トップダウンでビシッと筋の通った MVV を提示することとそれらを遂行する体制を確立することはいずれにしても不可欠だといえる。

組織を再構築・再構成し、認知を歪ませるワーディングを避ける

"DX" という言葉の曖昧性によって認知が歪むことで起こりうることについては上述してきた通りである。であるからして、『呼称は自他の意識に影響を与える*2』ということを考えると、組織の看板でもある部署名やチーム名からは "DX" という文字を直ちに外すべきなのである。"DX をやる人" というのが実際に具体的に何をする人なのかという自意識と他意識が人によって異なるからである。そして看板からだけではなく、標榜する MVV や組織の Principles からも排除するのが良い。定義の上書きは悪であるということも前述している通り。つまりは『本気でデジタルトランスフォーメーションを実現したいのであれば今すぐおまえらの組織の看板から "DX" の文字を排除しろ』ということなのである。世の中を見渡してみると、非デジタルの領域でビジネスを成長させてきた業種・業態の大企業における成功事例では、メディアへの露出時や利用したほうが通りが良さそうなケースを除いて "DX" というワーディングを極力避けている傾向があるように思えるがいかがだろうか。例えばトヨタ(Woven Planet)やファーストリテイリングなど。筆者はこれら2企業の中の人ではないし内情を一切知らない立場であるので推測の域を出ないのであるが。

戦略的に継続的なアウトプットをする

組織として筋の通った MVV が提示され、それが遂行されるようになれば、取り組みをミクロにもマクロにもアウトプットするようにしなければならない。どんな課題があって、どのようなアプローチで、どのように解決したのか、またはどのように失敗したのか。マーケティング戦略的には失敗したことを認めて公表することは難しいかもしれないが。アウトプットのベネフィットとして、情報は提供する者にこそ集まってくるという本質がある。多角的視点からのフィードバックを得るチャンスであるし、有益なインプットの総量も増加することが期待できる。内部別部署へのインプットのチャネルを増やすことにもなるので、それが成功事例なのであればリファレンスとしてより強固なものとなる。まだまだ多くの JTC が自社の内部的情報に対してクローズドな傾向が強いが、オープンマインドが必要。

SIer, コンサルティングとの決別

これについては多くを語ることを避けておく。

最後に

冒頭でも述べた通り、筆者は大手 JTC の開発組織で中間管理職をしている DX 課長である。前職でも部署の名前に "デジタルトランスフォーメーション" が含まれていたし変に縁があるが、前職時代からこの単語が大嫌いだし、現職でもなるべく使わないようにしている。このエントリーもゾワゾワしながら書いた。そのような人間の視点から実際に経験したことをベースに現時点で感じていることを思うがままにダンプした。賛否はあるだろう。意見をくれたら嬉しい。最後まで読んでいただいてありがとうございました。